老木の語ること(詩)
(原発避難区域で老人が帰りたいのはなぜ)
その土地に根付いた老木は語る
私はここに生れここに育ちここに老いる
私はこの地でこれまで生きてきた
幾度もの寒い冬を耐えて生きてきた
北風が唸り雪が積もる日もここに生きてきた
春は桜が咲きタンポポなど花が一斉に
この地をおおい芽吹きがある
さえづりはここにひびき春があり
夏は涼しい木陰をなして
涼しい風がこの地にそよぐ
遠くに流れる川の水の音が聞こえる
秋の日がさして晩菊だかたまり咲く
この村は昔からあり継がれた村
一枚一枚と木の葉が散り
落葉に埋もれて家々は静まる
私はこの地に生れ育ちここに老いる
そしてやがては朽ちてここの土となる
その私が今さらどこに移れるのか?
私はここが死ぬ場所なのだ
私の思い出はここにあり他にない
私はここに生れここに育ちここに老いて
そしてここに死ぬこの地の土となる
私の生きた場所はここであり他にない
私の一生はここで終わる
そして私の思い出はここに生きつづける
そうしてここに生きる者を見守っている
人間も生物だからこうなるのが自然なのである。この辺で故郷に住めなくなったけどもう老人はその土地から移り住むということは酷なのである。
それで98才の女性だったから原発で避難するときもういいと墓に入りますと言って自殺した、その気持がわかる。老人は長く生きた場所から離れにくいのである。
その人が生きたのはその場所であり思い出もその場所にあり他に思い出をまた作ることはむずかしいからである。
だから老人だけは避難区域でも帰りたいとなるのはそれは人間も生物の一種だから本能的にそうなる、それが自然の生なのである。土に還るというときもそうである。
そして年取るとわかるけど人生は一回しかないのである。思い出を作る時間も限られている、もう二度と思い出を作る時間がなくなるのである。
人間は結婚するにしてもそんなに何度も結婚したりできないだろう
その結婚でも思い出を作れる時間は限られているのである。
だから結婚は一度して老いるまでつづくのがいいとなる
人間が生きる時間は限られているのだから一人くらいしか思い出を作る時間がないのである。
人間はそんなにいろんな人と交わることはできないのである。
だからなんであれ自分の場合60年間も一緒にいた家族の思い出が一番の思い出だとなる
その他は一時的でありそれより瞬間的にすれ違ったというくらいの出会いになってしまう最後はさよならだけが人生だとなってしまうのである。
人間のこの世の出会いは長くはつづかない、遂に一瞬すれ違うだけだったとまでなる
ただある土地に生きることはその場が記憶として残りつづける、記憶は土地とともにある古い碑などもその土地とともにある記憶なのである。
そして人間は死ぬと死ぬ前からも忘れられるということがある
人間は本当に死ぬともうすぐに忘れられる、自分の世代になると次々に人が死ぬからいちいちもう記憶できない、有名人でもそうである。
あの人が死んだのか、あの人も死んだのかと、次々に同世代の人が死んでゆくからである
奇妙なことだが最も憎んでいる人がいたとしたらその人が思い出の人となることもある
なぜならたいがい忘れて無関心であり思い出せない、ただ泡沫のうよに人は消えてゆくだけである。そんな人がいたのかどうかすら最後はわからなくなる
それほど人の出会いははかないものかと驚く、さよならだけが人生だ、ただ人間は次々に消えてゆくだけだとなる
それでもその土地に根付いた生活は記憶として残りやすい、それは土地があるかである。土地とともにその生が記憶されているから長く記憶されるのである。
その土地が奪われたとき今回のように他に移れば記憶も失われるのである。
だから老人は避難区域に帰りたいとなるのは人間も生物の一種だからそうなっているのだ。
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