春の日の二色のバラ
春の日でした。この館のご主人様は一鉢のバラを買ってきました。黄色の小さな鉢のバラでした。その黄色のバラの花を前に買っておいたピンクのバラの鉢の隣に置きました。庭にはピンクと黄色のバラは美しく映えてご主人様は満足でした。その花は何もいうことがありません、花も満足していたのでしょう。
ところがその花から声が聞こえたのです。
「黄色いバラさんよりわたしのほうがきれいよ」
「なんですって、わたしの方がきれいですよ、ふん」
とピンクのバラは怒りました。
「あなたはわたしより新しい、わたしはあなたより前からここに置かれていたんですよ」
「そんなことで差別するのね、いやだね」
どうもピンクと黄色のバラは仲良くともに咲いていないようです。
ご主人様もその声を聞いて嫌になりました。
そしてまた何やら争う声がバラから聞こえました。
「ここのご主人様は新しく買った私の黄色のバラを愛してくださるんですよ」
「ええ、そんなことはありません、ピンクのバラを愛してくださるんです、だから最初にピンクのバラを買ってくれたんですよ」
「そんなことはありません、ピンクより黄色ですよ、ぱっと映えるのは黄色ですよ」
「馬鹿も休み休み言いなさいよ、ご主人様は私の方を愛してくださるんですよ」
花は争いやまず険悪になったようです
ご主人様がそう聞こえたのは実はバラの声ではなく人間の声だったのです。
ご主人様によってくる女性たちの声がバラから聞こえてしまったのです。
いつも争っている女性たちの声がご主人様を悩ましていたのでそれでバラからも聞こえてしまったのです。
バラはもともと人間のようなそんな争いなどしません、ピンクのバラと黄色のバラはとても美しくともに調和して咲いているのです。人間のみが調和することがないのです。
人と人が寄り合うときすでに争いの種がまかれています、どんなことでも争いの種があります。
人間の間で調和するということはないのです。ご主人様はそのことで悩んでいたのでついバラからもその声を聞こえてしまいました。
そして一人つぶやきました。
「ああ、人間はいやだね、いつも何かで争っている、その争いもやむことがないんだよ・・・
その間にたって苦しむのはもういやだね、このバラのようにともに美しく調和して咲いていたらいいのに・・・なぜそんな簡単なことが人間ではできないのか・・・」
こうひとりごとをやりきれなくつぶやいていました。
ピンクのバラに黄色のバラをそいる
二つの花は美しく調和して咲けり
ただそれだけのことなれど
人と人は互いに会いて調和することなし
争いはやまず仲違いは常なり
ピンクのバラと黄色のバラは調和して咲き春の日がさしていました。ご主人様の愛はピンクのバラにも黄色のバラにもそそがれていました。その二つの色はかえって並べることで互いに美しさを増していたのです。桃色は桃色にさらに映え黄色は一段と黄色に映えて咲いていたのです。ご主人様はそのバラを見て満足していました。